虚構の劇団「ビー・ヒア・ナウ」 観劇記

虚構の劇団」の公演、「ビー・ヒア・ナウ」を観劇してきました。今回は、その観劇記です。

ものすごくマニアックな観劇記なので、ご興味ある方のみご覧ください。公演関係者への、個人的なファンレターというか、感想アンケートのつもりで書きました。

シアターグリーン

写真は池袋のシアターグリーン。昔は100人程度しから入らない、小さな劇場だったのに、いつの間にか3つの異なる劇場が入っている複合ビルになっていました。時代の移り変わりを感じます。

虚構の劇団 と ビー・ヒア・ナウ

虚構の劇団は、第三舞台の元主宰で、エッセイストとしても著名な演出家・鴻上尚史が旗揚げした劇団です。

「ビー・ヒア・ナウ」は、第三舞台が1990年に初演した、舞台作品です。初演は渋谷のシアター・コクーンで行われました。

僕は以前にも書きましたが、第三舞台が大好きで、よく舞台を観に行きました。第三舞台の中でも、特に「ハッシャ・バイ」、「ピルグリム」、そして「ビー・ヒア・ナウ」が個人的なベスト3です。ビー・ヒア・ナウは、当時開局直後だったWOWOWでも舞台中継が行われ、録画して何度も見かえました。また、戯曲も勝って、何度も読み返しました。

ビー・ヒア・ナウは、一言で言うと、人生に絶望した一人の青年と、青年の幼なじみを軸とするお話です。人生に絶望した青年が、ある言葉を書き綴ったノートをめぐって、一癖も二癖もある、それぞれの「物語(人生)」を背負った登場人物が現れ、ストーリーが進んでいきます。

そんな、大好きな作品の再演とあって、非常に楽しみにしておりました。

ビー・ヒア・ナウ観劇記

以下、極めて私的な観劇記です。

オリジナルにリスペクトを払った演出

今回の演出は、鴻上さんではなく、深作健太さんという方でした。Wikipediaによると、深作健太さんは映画「バトル・ロワイアル」シリーズの脚本、プロデュース、そして2作目以降の監督を務めた方だそうです。

ビー・ヒア・ナウのチラシには、深作さんがこの舞台をとても気に入って、何度も見たと書かれていました。僕と同じですね。それゆえか、オープニング曲もエンディング曲も、オリジナルと同じ原曲を使い、それぞれの映像もほぼ当時と同じ構成のものでした。

深作さんという演出家が、自分と同じように、ビー・ヒア・ナウが好きで、敬意をもっていることが舞台の端々から伝わってくるような演出でした。一方で、まるでビデオの再生を見ているようでもありました。これは個人的な意見ですが、1990年版にこだわらず、脚本をある程度変えてしまうことを承知で、思いっきり1990年版とは異なる「新板ビー・ヒア・ナウ」にしてしまっても良かったのでは。

特に前半部分は、どの場面を見ても、まるで1990年版の呪縛を受けているかのようで、知らず知らずのうちに各役者を第三舞台の役者と比較してしまい、違和感ばかりを覚えました。

一方で、劇の後半はだいぶ色調が異なりました。脚本自体も、1990年版からかなり変わっており、より各登場人物の背景が浮き出るようになっていて、見応えがありました。前半部分に感じていた違和感はずいぶん消えて、すんなりストーリーに入り込めて行きました。脚本自体の違いもそうですが、演出がそれぞれの人物にうまくスポットライトを当てて、物語も登場人物それぞれの人となりも1990年版より分かりやすく、より理解しやすくなっていました。

壁と扉の使い方が効果的だった

舞台には大きな壁と扉が舞台の大道具としてセットされていたのですが、これが非常に効果的でした。主人公が悩み、苦しんでいるときは、壁がずずっと前にせりでて、大きな圧迫感を主人公に、そして見ている観客に与えます。客席から見ている自分にも、八方ふさがった主人公の心境が伝わってくる、憎い演出でした。

劇中ずっと開くことがなかった扉が、劇の最後にすっと開いたのも、とても暗示的でした。

役者は総じて達者な人ばかりだった

登場している役者はどの人もうまくて、正直1990年版の第三舞台の役者たち以上に芸達者に見えました。1990年版では役割がよく見えなかったボヤッキー、そして柄谷哲の秘書が、それぞれ秘めた感情、キャラクターが透け出ていて、とても良かったです。(これは脚本の違いによるものかもしれません)特にボヤッキーは演技力、存在感ともに抜群でした。

ドロンジョも、アクの強さと素直な女性としての両側面が絶妙に表現されていて、とてもよかった。

柄谷哲は、最初の登場場面ではあまり華々しく見えず、勝村政信のときよりも華がないように見えるなあ・・・と思っていました。ところが物語が進むに連れてどんどん良くなっていってびっくり。特に最後の見せ場、タイムカプセルのシーンでは、「ああ、ビー・ヒア・ナウという物語は、実は柄谷哲によって回っていたのだ」とさえ思えるもので、非常に素晴らしかったです。これも役者の力量によるものでしょう。

1990年版とは違った「佳作」でした

最後に全体をまとめると、「華やかさは1990年版の方が勝る、舞台としては今回のほうが勝る」ものでした。1990年版は、シアターコクーンという広い劇場、おおがかりなセットや大道具、そして当時の第三舞台の勢いと相まって、非常に華がある舞台でした。一方で、今回の虚構の劇団版は、華やかさでは正直1990年版に及ばないものの、物語の分かりやすさ、登場人物の心境が分かる演出など、より完成された舞台だったように思えます。

以上、私的なビー・ヒア・ナウ観劇記でした。