ブロードウェイでミュージカル「CHICAGO」を観る (2012年10月13日)

PM5時過ぎに起き、急いで地下鉄に乗り、ブロードウェイに向かう。ミュージカル「CHICAGO」のチケットをオンラインで手に入れていたのだ。

CHICAGOの看板

本当は、ミュージカル好きの同僚がお薦めする「The Book Of Mormon」を見るつもりだった。2011年のトニー賞受賞ミュージカル、そしてあのアニメ「サウスパーク」の制作チームがプロデュースする舞台、ということで、ぜひ見たかった。

ところが、やはり人気があるようで、ニューヨーク滞在期間中の空席が確保できなかった。

ブロードウェイの舞台は、ぜひ鑑賞してみたかったので、映画で見たことのある「CHICAGO」を選んだ。映画版とブロードウェイの舞台はどう違うか、見比べてみようと思ったのだ。

窓口でチケットを受け取る

CHICAGOの看板

CHICAGOを上演している、Ambassadar Theaterの看板。

劇場の受付

劇場の窓口は、チケットを持っている人用の窓口と、オンラインなどで決済した、当日チケットを受け取る窓口の二つに別れていた。

オンライン窓口に行ってチケットを受け取ろうとすると、名前を聞かれた。口頭で伝えるが、日本人の名前になれていないせいか、なかなかチケットを見つけられない。ふとおもいついて、決済に使ったクレジットカードを渡すと、あっという間に見つけて手渡してくれた。最初からこうすれば良かった。

会場内のチェックが厳しい

チケットを入り口で渡すと、半券と一緒に、パンフレットを渡してくれた。

CHICAGOのパンフレット

CHICAGOの半券

劇場に入場しても、すぐには自分の席に座れない。劇場の通路前に、チケットの半券をチェックするガードのような人が立っていて、チケットの半券を見せないと中に入れない。こんなにセキュリティが厳しいとは思わなかった。半券を見せて、ようやく自分の席に座る。 パンフレットを眺めていると、左後ろから、若い白人のカップルが、写真をとって欲しいと頼んで来た。

「Sure!」と答えて写真をとってあげる。

どうやら新婚旅行でブロードウェイを訪れたらしく、見事にドレスアップしていて、まるで舞踏会にでもでかけるような、きちんとした身なりをしていた。表情も上品で、育ちの良さを感じさせるカップルだった。 スマートフォンを渡されて、2.3枚写真を撮ってカップルに返す。

「Are the photos all right?」 と聞くと、「Perfect!」という言葉とともに、まるで映画の中のカップルのような、見事なスマイルを見せてくれた。本当に別世界の住人のようなカップルだった。

開演前に、トイレに行く。回廊には、CHICAGOのポスターがあちこちに飾られていた。

劇場内の回廊

戻ってくると、なぜかチケットの半券がない。どうやら、自分の座席におき忘れたらしい。半券がないため、座席に戻ろうとしても、例のガードが通してくれない。らちがあかないので、

「このパンフレットをみてくれ!僕はきちんとお金を払って入場したんだ。どうやらチケットを席におき忘れたみたいなんだ、頼むから通してくれ」
(Look this! I paid a fee and have a pamphlet, right? It seems I accsidentally left my ticket on the set. Please enter me! とかなんとか)

と英語で主張すると、ようやく劇場内にいれてくれる。アジア系の人間は僕ぐらいしかいなかったし、パンフレットも持っていたので、納得したらしい。片言とはいえ、英語が話せて良かった、と思った。もし、言葉が通じなかったら、せっかく高いチケット代を払ったのに、何も見ないまま宿に戻らなければいけなくなるところだった。

座席に戻ると、半券が椅子の下に落っこちていた。危ない危ない。

それにしても、ブロードウェイの劇場が、こんなにチェックが厳しいとは思わなかった。チケット代は決して安くないので、ふらふらっと只見をするような客をブロックする必要があるのだろう。

劇場内

周りを見回すと、だいぶ席が埋まり始めた。ただ、空席もあり、だいたい8-9割ぐらいの埋まり具合だった。さっき写真を撮ってあげたカップルのように、ドレスアップした人や、それなりに着飾った人もいたが、、普通の服装のお客さんも多い。僕は、Orchestraと呼ばれる、1階の真ん中辺りの席に座った。せっかくブロードウェイに来たので、できるだけ良い席で見てみたかったのだ。舞台全体が見渡せ、なかなか良いポジションだった。

Orhcestraの席

CHICAGOの振り付けは「フォッシー振り」が満載だった

CHICAGOはだいたい2時間ぐらいで、途中15分ほどの休憩時間があった。舞台では、小規模なオーケストラが指揮者付きで演奏を行なっていて、そのセットを囲むように上下左右で芝居が進められていった。

以下、CHICAGOを見た感想を順番関係なく書いてみる。

生の舞台は、やはりなかなかの迫力があった。観劇した翌日、宿の管理人さんにCHICAGOを観てきた旨を話すと、こんなエピソードを教えてくれた。

「CHICAGOの映画は観ましたか? 」
「CHICAGOはもともとブロードウェイの舞台として作られたんですが、映画がとても豪華に作られていたでしょう。映画を見たあとに舞台を見た人の感想を聞くと、『映画ほどの迫力がなかった』という人が結構いたんですよ。」

2002年に公開された映画の「CHICAGO」は、主演がキャサリン・ゼタ=ジョーンズにレネー・ゼルウィガー、そしてリチャード・ギアと、豪華なキャスティングだった。映像シーンも、迫力満載で、映画としてよくできていた。実際、映画「CHICAGO」はアカデミー賞の作品賞、助演女優賞など、6部門受賞した映画だ。

映画に比べると、舞台の方は確かに登場人数が少ないし、セットも極めてシンプルなものだったけど、僕は十分満足した。やはり、生の舞台で鍛えられたダンサーが歌い、踊るのをみるのは、とても贅沢な時間だった。

ダンスシーンは迫力があったが、正直に言うと「飛び抜けてすごい」とは感じなかった。ダンスのスキルや体のキレ具合などは、日本のダンサーでも十分対抗できるのではないかと思った。実際、新宿のBDCスタジオや、恵比寿のウィングなどの先生クラスなら、CHICAGOの舞台上のダンサーたちと比べても、スキル自体に差はないと思った。

けれども、ダンスのスキルに加えて、歌い、演技をし、そして舞台上で見栄えのするプロポーションを持ち、華がある・・・などなど、ダンス+アルファを兼ね備えているダンサー、となると、やはりそうそういないだろう。そして、その中からオーディションを勝ち抜いて舞台上に上がっていることを考えると、やはり眼の前にいるのは、選ばれた人たちなのだ、と思った。

ダンスの振り付けは、いわゆる「フォッシー振り」が満載だった。テンガロンハットを小道具で使い、男性も女性も最低限のドレスで、まるで下着姿のようないでたちで、ときおり猫の手のような、グーの手をくいっくいっと動かす動きなど、フォッシーの映画や舞台でよく見る振り付けだった。
(現在上演されているCHICAGOの振り付けを演出したのは、フォッシーの愛弟子だったANN REINKINGという人だ)

休憩時間が終わると、オーケストラが客入れの曲をその場で演奏する。ときどき即興演奏もあり、また舞台の登場人物たちが、第二幕開演まで、舞台上でリラックスした様子で客入れの演奏に合わせてリズムを取ったりしているのを見るのは、とても楽しかった。

実際にブロードウェイの舞台を見てみると、セリフや歌の英語がどうにも聞き取れず、細かい部分が全然理解できなかった。正直ここまで聞き取れないものかと、自分にがっかりした。2002年の公開当時、映画のCHICAGOを見ていたため、ストーリーや歌、ダンスシーンはだいぶ見覚えがあったため、登場人物がどんなシチュエーションにいるか、どんなことを話しているか、おおよそは理解できるのだけれど、舞台ならではの細かい機微が楽しめなくて、非常に残念だった。感覚的には、全体の5割程度ぐらいしか聞き取れなかった。もし事前に映画を見ていなかったら、聞き取りの割合は3割ぐらいまで落ちていたと思う。

カーテンコール途中で帰る観客たち、観光地化したAmbassadar Theater

2時間弱の舞台が終わり、幕が下りると、観客たちがカーテンコールを求めて拍手を送る。一度降りた幕が上がり、役者たちが一度目の挨拶を終えて、舞台裏に戻る。再び拍手が高まると、オーケストラの演奏が始まる。さあ、ここから役者たちが、2度目のカーテンコールに登場するはずだ・・・

とおもいきや、なんと、観客たちはぞろぞろと立ち上がり、コートを着て通路を向かい始めた。

あれ? なんでみんなここで席を立つの? 

舞台上では、オーケストラの指揮者が、席を立つ観客たちを見ながら、さらに指揮の手を強めて、演奏を盛り上げようとする。観客の反応はどうか、指揮者がチラチラと観客席を何度も振り返る。僕は呆然としながら、拍手を続ける。

なぜみんな、座って役者の2度めの挨拶をみないの? どう見ても、もう一度出てきそうだよ? 指揮者の表情を見ていると、明らかに2度めのカーテンコールのために演奏しているよ?

 しかし、一度立ち上がった観客たちは席に戻ること無く、もう席に残ろうとする人たちのほうが少ない状態。指揮者も諦めてしまったようで、ついに観客席を振り返ることを止めてしまい、演奏を客だしモードに入ってしまった。

僕はびっくりすると同時に、はっと気がついた。

今日、CHICAGOを見にきた人たちは、「評判のミュージカル」「完成された舞台」を見に来たんじゃない。
ミュージカルのメッカ、ブロードウェイで、中でもとびきり著名な、映画になってアカデミー賞までとった作品のオリジナル版を「観光」しにきたのだ。

舞台が始まる前に写真を撮ってあげた、絵に描いたようにドレスアップしたカップルは、おそらく新婚旅行か何かで、思い出を作るために、ブロードウェイに来たのだろう。それも、とびきり有名な作品、「CHICAGO」なら、映画になってアカデミー賞をとったし、誰でも名前を聞いたことがある。新婚旅行から帰ったあとに、とても良い話の種になる。

おそらく、そんな理由で、CHICAGOを見に来た人が大勢いたのではないか。

高いお金を払って見に来たのだから、楽しみ方は人それぞれ。別に舞台の邪魔をしたわけでもないし、終幕後にそそくさと席をたっても、別に問題があるわけではない。

僕も最初は呆然としたけど、これはこれで、ブロードウェイの一つの現実なんだ、と、突然理解してしまった。

ブロードウェイというと、ダンスや芝居を志す人たちのあこがれの場所だ。そして同時に、まぎれもなく世界的な観光地の一つなのだ。

なんだか、CHICAGOという作品は、舞台上のダンスや歌だけでなく、それを目当てにやってきた、(僕も含めた) 観光客まで含めて、大きな意味で作品の一つ、大掛かりな作品になってしまったんじゃないか、と思ってしまった。別な言葉で言えば、ミュージカルのCHICAGOという作品は、すでに「CHICAGOという名前の産業」になってしまったのだ。

ふと、自分が座っている座席それ自体が、実は何か舞台の小道具だったような、そして自分が舞台のエキストラになったような、なんともいえない不思議な気持ちに襲われた。

CHIAGOの看板

劇場から出てくるお客さんたち

うまく言葉に出来ない感覚に包まれながら、Ambassadar Theaterを出て、再びタイムズスクエアへ向かった。