2009年11月11日 22:00

「2011年新聞・テレビ消滅」の私的感想

佐々木俊尚さんの「2011年新聞・テレビ消滅」を読了しました。

2011年新聞・テレビ消滅 (文春新書)
2011年新聞・テレビ消滅 (文春新書) 

最近は、以前よりも真実味を帯びた「インターネットの普及によるマスメディアの崩壊」という話題・メディア論を良く聞きます。

この本も、とても面白かったので、読書メモ程度に感想文をつらつらと書きます。

タイトルには「2011年」という、具体的な西暦が書かれていますが、著者は以下のような理由を根拠として著述しています。

  • 2008年ごろから、アメリカの新聞社が続々と経営破たんしていること。アメリカの潮流は2、3年遅れて日本でも起こることが多い
  • 地上放送におけるアナログ波の停波。これまでの平均的な「番組をテレビ受像機で見る」というモデルは一度リセットされ、テレビ鑑賞の手段が多様化する。インターネット経由、CATV経由の視聴増加。HDDレコーダーによるタイムシフト視聴。視聴率調査が今まで以上に意味をなさなくなる。すなわち、従来型テレビ広告モデルの崩壊、媒体力の低下。
  • 通信放送法の施行。テレビ局によるコンテンツ独占形態の変化。

アメリカにおける新聞社の経営破たんは、ちょうど同じタイミングで呼んでいた「NewsWeek」でも詳しく記事化されており、あわせて読むと、非常に面白いです。

Newsweek (ニューズウィーク日本版) 2009年 9/16号 [雑誌]
Newsweek (ニューズウィーク日本版) 2009年 9/16号 [雑誌]

 

本書内では、Googleの及川氏が語ったという「マスメディアの3層モデル(コンテンツ、コンテナ、コンベヤの3Cモデル)」という視点でメディア構造を説明しています。例えば新聞は

  • コンテンツ(内容)
    ・・・新聞記事
  • コンテナ(コンテンツの見せ方、編集しパッケージ化された商品)
    ・・・新聞紙面
  • コンベヤ(パッケージ化された商品=メディアを流通する手段)
    ・・・新聞販売店

以上のような構造を持っています。

一方、インターネットを利用した「新聞記事」の視聴形態は

  • コンテンツ
    ・・・新聞記事
  • コンテナ
    ・・・ヤフーニュース、検索エンジン、だれかのブログ、2ちゃんねる
  • コンベヤ
    ・・・インターネット

という風に変化してきています。

「新聞記事というコンテンツを編集し、流通できる形にパッケージ化して、販売店を通じて流通、販売する『新聞社』というビジネスモデル」

は、崩壊に瀕している、という視点です。

他にもこの3層構造を利用して、様々なメディアを分析しています。それがとても分かりやすく、現状のメディアの問題点が浮かび上がります。

そのほか、気になったところをメモとして記述すると

  • デジタルコンテンツの流通携帯として成功を収めた「itunesモデル」は、テレビ、動画コンテンツにも応用できるか
  • MySpaceのプレイリストを通じて、従来日の目を見なかった音楽コンテンツ、昔のアーチストにスポットライトが当てられている
  • アメリカのブログメディアを取り扱う広告会社、グラムメディアネットワークの発達 (→ AMNのモデルになっているのだろうか?)
  • 現在の広告会社に求められる資質は、広告媒体を効果的にターゲティング化して選定、クライアントに提案できる能力(→メディアレップと呼ばれるネット媒体の広告会社を発展させた形に近い)

などなど。

興味深い箇所を取り上げていくと、きりがありませんでした。

本書は、従来型のマスメディアに対して、かなり激烈なメッセージを送っています。

新聞やテレビといったメディアがいかに旧時代の発想をしているか、そしてインターネット時代のメディアモデルを理解できていないか、という点を、これでもかというぐらいに説明しています。

それは単なる批判ではなく

「新聞を初めとするメディア業界への、変わってほしいという強いメッセージ」

にも感じられるのです。

著者である佐々木さんは、かつて新聞社、出版社という、まさに旧型メディア産業を経験されている方です。本書からは、メディア産業に対する、佐々木さん自身の

「なぜインターネット時代のメディアのあり方に気がつかないのか」

「なぜ、古いままの固定観念に縛られているのか」

という、個人的なメッセージ、叫びにも聞こえる気がしました。

実は、僕もかつて、出版業界に属したことがあります。ある出版社のスタートアップメンバーとして、出版事業の立ち上げに参加し、出版業界と言うものをしばらく経験させていただきました。

一昔前「テレビ、新聞、ラジオ、出版」をまとめて「メディア産業」と読んでいました。このうち出版事業は、規模感から言うと、マスメディアというよりも「ミドルメディア」というべきもので、新聞やテレビ放送とはパイが異なります。(ブログやネット媒体のほうに特性が近い)

それでも、「旧来のメディア業界の閉鎖性、旧態依然とした体制や発想」は十二分に経験することができました。

佐々木さんが語られているような

「なぜ旧来のメディア人は、インターネットのインパクトを理解できないのだろう」

というようなシーンが、それこそ日常茶飯事だったのです。

(佐々木さんがかつて属したアスキーは、通常の出版社と異なり、もともと最先端のIT、ネットワーク技術を扱う会社で、インターネットに対する理解度は十分に深い会社です。しかし、一般的な出版社は、編集側、流通側も含めて、本書の中の「いわゆるマスメディア業界人」のような、旧態依然とした産業構造にどっぷり浸かっているのです。)

佐々木さんがおっしゃられるような「現状を認識できないメディア」という構図はとてもよく理解でき、より一層、真実味が感じられました。

2009年のメディア事情をコンパクトにまとめた一冊として、とても面白い書籍です。

ちょっと視点は変わりますが、磯崎哲也さんが有料メールマガジン「週刊isologue」で、新聞・テレビ各社の財務分析をされています。こちらもあわせて読むと、なお一層興味深く、現状のマスメディアの状況を再確認できると思います。


追記:

歌田明弘さんの記事「新聞崩壊を懸念するGoogle」が公開されております。こちらもあわせて読むと、より一層興味深いものがあります。ご参照ください。