先日「パレスチナ」という新書を読み、無性に中東情勢とイスラム教のことを知りたくなりました。
しかし、僕自身、あまりにもイスラム世界の知識が少ないために、学術的な研究書、あるいは論文を読んでも、消化不良になることでしょう。
そこで、入門書をとして読んだのが、阿刀田高さんの「コーランを知っていますか」です。
コーランを知っていますか
ご存知の方も多いかと思いますが、阿刀田高さんは元々は短編小説を得意とする小説家で、最近(この10数年)は、世界各国の古典を、日本の口語体でやさしく紹介する書籍に力を入れています。
氏の代表的な古典紹介シリーズとしては、新旧の聖書を紹介する
「旧約聖書を知っていますか」
「新約聖書を知っていますか」
などが存在します。
なわけで「コーランを知っていますか」を読んでみたわけですが、今までぼんやりと持っていたイスラム教、コーランのイメージが良くも悪くも覆されたので、紹介したいと思います。
以下、「コーランを知っていますか」に即した受け売りの文章となります。
■ イスラム教には「イエス・キリスト」「アブラハム」「モーセ」らが聖者として登場している
9/11以来、イスラム教のイメージはともすると「他宗教と敵対的」「独自の神と預言者を信奉する過激な集団」というイメージが強く付きまといがちですが、本書を読む限り、決してそうではありません。
そればかりか、コーランには
「イエス・キリスト」(書中では「イーサー」、キリスト教の開祖)
「アブラハム」(書中では「イブラーヒーム」、ユダヤ民族上の伝説の聖者、ユダヤ民族の始祖と目されている)
「モーセ」(書中では「ムーサー」、ユダヤ民族をエジプトの奴隷支配から解放した聖者)
などがそれぞれ登場し、いずれも
「神の言葉を預かる預言者、聖者」
としての位置づけをされています。
また、それだけではなく、キリスト教に登場する天使「ガブリエル」が現れ、イスラム教の開祖・マホメットを導き、キリストやモーセなど、預言者の先達たちと出会うところまでが描写されています。
コーランに出てくる主要な預言者、そして伝承の歴史などは、驚くほど「旧約聖書」と似ています。
本書を見る限り、イスラム教はユダヤ教と非常に近い伝承を持ちながら、微妙な異なりを見せています。
「唯一神」を信じる、その純粋な宗教的姿勢は、ユダヤ教、キリスト教となんら異なるところがありません。
というか、イスラム教は「ユダヤ教、キリスト教に連なりながら、両者とは指導者が異なったため分派したグループのひとつ」と見えなくもありません。
仏陀を開祖としながら、様々な宗派に分かれていった仏教のように、元は同じ「唯一神」を信じながら、たまたま指導者や協議が違ったために分派して行っただけのように思えます。
ユダヤ教、キリスト教、イスラム教は、いずれも一神論という共通点がある、ということは知識として知っていましたが、まさかここまで同一の起源を持つとは思っていませんでした。
本書を見る限り、「預言者」が異なったため哲学や教義が異なっただけで、「唯一絶対の神を信じてあがめる」一点において、どの宗派も同じ「神」を奉り、祈りをささげているとしか解釈ができません。
■ 宗教というよりも「法律」に近い
コーランには、様々な生活の規範とも言うべきルールが書いてあります。
著者は、それを「600年代の、様々な宗教・部族に分裂した人々をまとめるための生活規範として成立したものであり、マホメットの言葉を通して人々の暮らしのルール、規範をまとめたものである」という風な著述をしていますが、まさに
「宗教というよりも、生活上の条例、法令に近い」
と思わせるものがあります。非常に実学的です。
神の名を借りて、集団生活のうえで起こりうる様々な問題、トラブルに対して、ある価値観から正邪を決めるためのルール、規律に思えるのです。
本書では、そのほかにも「イスラム世界の金融、金利の考え方」や「聖地メッカ、メディナの由来と、現在の状況」など、様々なイスラム社会の側面を紹介しています。
いずれも今まで知りえなかった知識であり、非常に「コーラン」を身近に、自分たちの世界との対比で考える材料に富んでいます。
イスラム世界では
「コーランは原語でしかありえないもの、翻訳されたものはコーランとは呼べない」
という解釈を長らく取っていて、世界各地でコーランの翻訳が行われたのは歴史が浅いのだそうです。だからこそ、イスラム世界、コーランが西洋社会に浸透しておらず、分かりづらさにつながっているのだろうと思います。
(現在は比較的翻訳に対して寛容な考えになっているそうです。ただし「コーランは本来原語であるアラビア語でしか解し得ないものだ」というのが基本的な考えだそうです)
阿刀田氏は本書をして
「コーランの深遠さと特殊性を考えれば、これが不十分なものであることを筆者自身、よく承知している」
と明言した上で、必ずしも本書が「コーランを正しく紹介し切れていない」と認めています。
確かにそうかもしれませんが、我々のような
「そもそもコーランの世界、イスラムの世界を知らない人間にとって、これ以上ない入門書」
であることは間違いないと思います。
ご興味のある方は、ぜひ一読をお薦めいたします。
なお、氏は他にもギリシャ神話、千夜一夜物語、イリオストオシュッデセイヤなど、洋の東西を問わない古典を、読みやすい文体で紹介しています。
あわせて「旧約聖書」「新約聖書」の紹介書もあわせて読むと、いっそう興味深い事柄が多いと思います。
れらの紹介シリーズは、肩肘張らない、非常に平易で読みやすい文章で古典を語りなおしてくれており、普段宗教や古代世界になじみのない人でも、十分に楽しめる構成となっています。
氏が内容を租借し、概要をまとめ、日本人に分かりやすい例えやシチュエーションを利用して書いているからで、ショートショート出身の氏だからこそ「まとまった短文で、エッセンスを抜き出す」形でまとめることができているのでしょう。
ご興味をお持ちの方は、ぜひ一通りご一読ください。





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