2010年6月23日 22:00

「手ぶらで帰ってくるな」

大学生の頃、ものすごく極貧だった時期があり、アルバイトで生活費と学費を稼いでいました。

いくつかアルバイトをこなしていたのですが、その一つに、

「青山のピアノレストランでウェイター」

というものがありました。

忙しいお店で、厳しい店のママさんに、徹底的にしごかれたのを良く覚えています。

ママさんが口を酸っぱくして教えてくれたことの一つに、

「絶対手ぶらで帰ってくるな」

という教えがありました。

これは

「お客さんに食事のお皿を届けた後、何もせずにそのまま帰ってくるな」

という意味です。

どういうことか、少し詳しく解説してみます。

僕たちウェイターの仕事は、料理ができたときにお客さんへ運んだり、食事が終わったお皿を下げたり、空いているコップがあったらお水を注いだり、お客さんが気持ちよく食事ができるようにするのが仕事でした。

料理ができあがったとき、僕たちウェイターは、キッチンからお客さんのテーブルまで、その食事を運びます。運んでいるときは、両腕ともお皿でいっぱいです。

お客さんのテーブルに着いたら、「お待たせしました」と声をかけ、料理をサーブします。

これで、キッチン→テーブルの仕事は完了です。

サーブが終わったら、当然次のお客様に料理を届けるために、再びキッチンへ戻ります。

この、テーブル→キッチンへ移動するとき、お皿で一杯だった両腕は、フリーの状態になっています。

ママさんは、このときの状態を指して

「ぼーっとして、キッチンまで帰ってくるんじゃない」

とよくウェイターを叱っていました。

帰ってくる間に、食事が済んだお客さんのお皿を下げたり、水が少なくなったコップに水を注いだり、何か仕事をして帰ってきなさい。

そうじゃないと、

「食事を出すのに1往復」
「空いたお皿を下げるのに1往復」
「水をコップに注ぐのに1往復」

かかる。

お客さんに料理を届けた後、帰ってくるときに、きちんと目配せができていれば、コップに水を注いで、その後、空いたお皿を持って帰れるじゃないか。

1往復で、3つの仕事ができるでしょ。

そうやって、動きをシャープにしていきなさい。

そんなことを言っては、ウェイターたちを厳しく教育していました。

僕は、この「手ぶらで帰ってくる」ことがたびたびあったので、厳しくママさんに怒られ、「1アクションで、複数の仕事をする」ということを、徹底的に叩き込まれました。

これが意外に難しく、ぼーっとしてキッチンに帰ってきては怒られ、しごかれ、ひーひー言っておりました。

この「手ぶらで帰るな」という言葉、今から思うと

  • 1つのアクションで、無駄なく、効率よくタスクをこなすこと
  • 常に目配せをして、周囲の状況を察知すること

という、「仕事の基礎の基礎」を、教えてもらっていたのだなあ、と気がつきました。

今でも仕事が忙しくなったときほど、この修行時代を良く思い出します。

けれども、歳をとっても、ときどき1つの仕事を終えた瞬間、「ぼーっ」としてしまう自分がいます。いかんいかん。

自戒の意味を込めて、思い出しながらブログに書いてみました。

ママさんは既に亡くなり、お店も既に存在しません。でも、あのときの経験は、今でもとても役に立っています。

本当にありがとうございました>ママさん