ジェネラリストからスペシャリストへ、スペシャリストからポリバレントへ
ジェネラリスト(会社員)からスペシャリスト(専門家)へ
今年に入ってから読んだ本の中で、立て続けに
「これからはジェネラリストではなく、スペシャリストとして生きる時代だ」
といった趣旨の文章を何回か見ました。
ここでいう「ジェネラリスト」は、いわゆる「会社人間」のことで、
「事務的なスキルは満遍なくあるが、何か「手に職」になるような、専門的な技術は持たない人」
を指しておりました。
「文系・大卒・30歳以上」がクビになる―大失業時代を生き抜く発想法 (新潮新書) 
も然り、
ネットがあれば履歴書はいらない-ウェブ時代のセルフブランディング術 (宝島社新書) 
も然り。
「ネットがあれば履歴書は要らない」で、著者の佐々木俊尚さんは、以下のように述べておりました。
これでは社内でいくら仕事ができようとも、他の企業に入れば、まったく意味がないことになる。仮に会社の経営が厳しくなったとき、これでは転職しようにも誰にも相手にしてもらえない状況が待っているだけだ。ジェネラリストといっても、しょせんは勤務先の会社の中だけで成り立つジェネラリストであり、本当の意味でのジェネラリストではないのだ。
だからこそ、エキスパートになる必要があり、これから訪れるであろう時代に備えなければならない。先ほども書いたように、昨今の転職市場で求められる人材は、エキスパートであることは間違いない。転職での面接の際、「僕は営業も人事も総務も経理も、一通り経験し、社内ではチームワークを大事にやっていました」といっても、何のとりえもない人にしか見えない。そんな人物を企業が雇いたいと思わないのは当然のことだ。
それならば、「ずっと経理部に所属し、経理に関しては誰にも負けないと自負している」と面接官に伝えたり、「○○というシステムを使いこなします」と具体的な専門性を伝えることの方が、企業から雇ってもらえる確率は数段に上がるだろう。
(「ネットがあれば履歴書は要らない」21ページより)
これはよく理解できます。
僕は、ある企業に10数年所属した後、初めて転職したのですが、そのときに評価されたのは
・ずっと携わってきた、営業とかマーケティングの職能
よりは、むしろ
・当時はまだ珍しかった「CMS」という仕組みに対する知識とか興味、経験
のほうが大きかったのでした。
これが僕には、発見でもあり、ちょっとショックでもありました。
そこそこ名前が知られた会社にいたので、そこでの営業経験や業務経験はそれなりに評価されるかと思ったのですが、そちらは可もなく不可もない評価だったようです。
それよりはむしろ、当時の会社が開発していた「CMS」という仕組みについて、興味や知識、経験(自家製のニュース更新システム)を趣味で作っていたことのほうが、評価されたようです。
中村俊輔選手が説く「満遍なくできる」という才能
そんなわけで、最近の自己啓発本では「スペシャリストを目指そう」というフレーズをよく目にします。
ただ、僕は、この言葉に違和感を感じていました。
「スペシャリストはスペシャリスト同士、苛烈なまでの競争にさらされる。そんな競争で勝ち残る、目立つ、実績を残すのは、おそらくごく一部だろう。そんな過酷な世界に、簡単に足を踏み入れて勝ち残れるものだろうか」
といった感覚でした。
スペシャリストになった瞬間、その道の専門家で激しい争いが待っている。
そんな苛烈な競争に、簡単に足を踏み入れてよいものだろうか?
このもやもやした感覚に、はっきりとした回答を与えてくれたのが、サッカー日本代表・中村俊輔選手の著書「察知力」でした。
中村俊輔選手はご存知のとおり、現在日本最高峰のサッカープレイヤーの一人です。彼がサッカーのスペシャリストであることに誰も異議はないでしょう。それも、日本のトップクラスのスペシャリストです。
しかし、同時に、中村選手は一流選手がひしめくヨーロッパサッカーの世界で、自分をはるかに上回る「スペシャリスト達」との競争を余儀なくされてきました。
そんな中、中村選手は、どうやって世界クラスの人間達と戦ってきたのか。
その答えは、様々な技能を平均的にこなす、まさに「ジェネラリスト的な能力」だったといいます。
ヨーロッパでプレーしている選手の多くは、これなら誰にも負けない、という武器を持っている。そして、彼らは欠点を補うことよりも、その長所を伸ばす教育を受けてきた。
日本は逆で、高所は長所で活かしつつも、欠点を補うことの大切さを教えられる。だから日本人は何でもできるけど、個性が乏しいといわれるのかもしれない。
でも、僕自身、ヨーロッパでプレーして、平均的にいろんなことができる力は武器にもなると考えた。あるブラジル人選手は、とても高い攻撃力はあるけれど、守備が甘い。でも僕はどっちもできるように頑張った。選手の能力をいろんな項目に分けて、レーダーチャートを作ったときに、円を描けるようにしたいと。そしてその円を大きくしていくべきだと思った。ブラジル選手の高い攻撃力に勝つことは難しくても、安定感のある円で勝負したほうが、ポジション争いに勝てるはず。円でいるというのは、引き出しの数が多いということでもある。
監督が代わり、サッカーが変わり、僕に対する要求やプレーするポジションが変わったとしても、引き出しが多ければ、そういう新しい状況に対処しやすいし、ポジションを得て、どんな監督のもとでも試合に出る可能性が高いんじゃないかと考えた。
これは、日本代表に対しても同じことが言えるのではないか。
(「察知力」29ページより)
中村選手が語る「引き出しの多さ」というのは、すなわち「ジェネラリスト的な能力」と言い換えることができるでしょう。
ここではあえて「ジェネラリスト」ではなく、「ポリバレント」という言葉を使いたいと思います。
平均的に、人並みのことができるのが「ジェネラリスト」というのだとすれば、複数の分野にわたりスペシャリストと伍する知識や能力、経験を有することを「ポリバレント」といって良い気がします。
中村選手が語る、多方面にわたる技量の習熟の概念は、まさに「ポリバレント」という言葉がふさわしいと言えるでしょう。
ポリバレントな人材になりたい
僕は、ずっと前から、この「ポリバレント」という概念に惹かれています。ポリバレントな人材になりたいと切に願っています。
それは、自分が経験してきた職種に関係があります。
僕が主に経験してきたのは、「営業」、「マーケティング」、そして「ウェブディレクター」です。
これらの3種類には「人と人との媒介になる職種」という共通点があります。
つまり、
・営業は自社とクライアントという、異なる二つの存在を結びつける職種
・マーケティングは、開発・営業とクライアント、そして目には見えないけれど、確かに存在する「顧客」という存在をすべて結びつける職種
・ウェブディレクターは、専門的な開発の知識と、クライアントの現場の要望の間に立って、現実論に落とし込む職種
とそれぞれ言い換えることができます。
人の間に立つ仕事を続けていると、
「お客様の要望を隅々まで理解できるようになりたい」
とか、
「開発が言う専門用語をすべて理解して、『難しい、できない』で終わらせず、現実解にもって行きたい」
と思うことが良くあります。その際に、
「どれだけ多方面にわたる知識と力を持っていて、それぞれのスペシャリストと渡り合うか」
という能力、すなわち、
「いかにポリバレントな能力を持っているか」
がキーとなることが度々あるのです。
ポリバレントは、検索エンジンの複数キーワード検索に似ている
この「ポリバレント」という能力は、ある意味、検索エンジンの「複数キーワード検索」に良く似ています。
検索エンジンでは、ある特定の「ビッグワード」(よく検索される単語)は、上位の表示サイトがほぼ決まっており、これをひっくり返すのは並大抵ではありません。
例えば、「動画」で検索すると、検索結果の上位は間違いなく「Youtube」や「ニコニコ動画」、他、多数の有名なサイトばかりです。個人で「動画」のキーワードで検索上位に入る=その道のプロになるのは、至難の業です。
だけど、これが「動画+アルファ」だったら、検索結果はがらっと変わります。
ポリバレント、という概念は、この「複数キーワードで上位に入る」ことによく似ているかもしれません。
単なるスペシャリストに終わらない、「ポリバレント」な能力で未来を切り開きたい
プロのサッカー選手のように、突出した才能の持ち主である「スペシャリスト」であっても、ある分野に特定すると、さらに激しい競争にさらされます。例えばサッカーのフォワードは、得点数によって評価が決まる世界で、ゴールができないと激しい批判にさらされます。
そんな過酷な世界で生き残るには、中村選手が記したように、
・多方面にわたる能力―「ポリバレント」な能力
が重要な鍵を握る、と言って間違いないでしょう。
僕はサッカーの選手ではありませんが、ベンチャー企業を渡り歩いて
「最後は、会社ではなく、自分の能力でしか未来を切り開けない」
ということが、身にしみています。
特に今は、インターネットという、競争が激しい環境に身をおいているので、なおさら自己研鑽の大事さを感じています。
そして、自分は、それぞれの「スペシャリスト」の世界では、二流でしかない、という事実が良く分かっています。
CMSの世界では、CMS技術者として、それぞれのプラットフォームに長けた開発者にも、デザイナーにもかないません。
営業の世界では、何十億という案件をまとめる、敏腕営業マンにはかないません。
そんな中、自分が生き延びるには、「ポリバレント」というキーワードにしかないのだろうと強く思います。
何十億という案件はまとめられないけれど、「CMSの営業」「システムの営業」なら、勝てるかもしれない。
CMS技術者としては二流だけど「営業が分かるCMS技術者」「マーケティングが分かるCMS技術者」という存在は、珍しく、重宝されるかもしれない。
そう思いながら、日々努力する毎日であります。
できれば
「CMS」
「サーバー、ネットワークシステム」
「営業、マーケティング」
「英語」
「コミュニティ運営」
といったキーワードを組み合わせて、人にはない自分だけのポリバレントな長所を作って行きたいなあ、と強く考えています。

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